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悪人(2010) [movie-あ行]

私の「悪人」初体験は、横浜美術館で観た束芋の展示だった。
吉田修一の連載小説『惡人』の挿絵として描かれた、ねっとりとした世界観に、
現代の日本人の原体験的な匂いを感じた。
当時は原作を読んでいなかったので、束芋の世界観と吉田修一の原作のつながりが理解できず惜しい気がして、
いつか原作を読んでみようと思っていてそのままになっていた。
そして李相日×妻夫木聡×深津絵里による映画化。
これは観なくては、と思うと同時に、先に原作を読むべきだろうと思って、
原作自体は1ヶ月以上前に読了していたのに、映画は何となく見そびれてしまっていた。
公開が終盤になってきて、そろそろ観に行かなくては、と焦って映画館へ。
原作は、正直言って想像していた以上に面白かった。
思わず、先を想像しながら引き込まれてあっという間に読んでしまった。
普通の日本人の、普通の生活の合間に起こりうる、普通でない何か。
吉田修一は、「パークライフ」や「春、バーニーズで」のような軽いものより、
地元長崎を舞台にした「東京乱楽坂」やこの「悪人」のような人間臭い作品の方がダントツに面白い。

そして、映画。
脚本は原作者である吉田修一自身が行っているため、
多少の設定変更はあるものの、ストーリーや話の展開のスピード感にさほど違和感は感じられない。
オープニングの夜の闇の暗さと続く道路を走る車の疾走感、
九州のそれぞれの街で、孤独と空虚な心を抱え生きる若者と、その親の世代の心配と葛藤。
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彼らは運命に翻弄され偶然の結果として、殺されたり、殺人をを犯したり、殺人の容疑をかけられたと勘違いしたり、
そして殺人犯を愛してしまったりしただけ。
キャスティング、ロケーション、ともに当然のことながら原作の雰囲気を損なうことなく、仕上げられている。
深津絵里の孤独な女という役どころのひたむきな演技も良かったし、妻夫木聡も悪くなかった。
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親の世代を演じる役者たちも見もの。
日本人の心象風景と悪の所在。男と女。親子、家族関係。
そういうものの描写は本当に見事だった。

この作品を観た人は、ラブストーリーとして観たのだろうか?
私はどうしても最後まで恋愛ものとして感情移入しきることができなかった。
地方都市で暮らし、他人や自分を偽っても夢を見たい年頃のOL。
無目的で開放的になることすらできない若者の諦念。
婚期を逃した女性としてつつましく生きることの息苦しさ。
そういう焦燥感や渇望やどろどろした塊の発露が事件になった。
偶然に囚われた男と女。
境遇と彼らの心象風景が相乗効果を与え、光代と祐一の逃避行へとつながっていく。
時間を割いて描写されている祐一の祖母(樹木希林)と石橋佳乃の父(柄本明)の名演で、
光代と祐一の女と男のつながり、と言うところが少し薄められてしまった感もあった。
けれど地方に住まい、子に頼りまたは子を心配する親の心情はいつでもどこでも変わらない。
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そして若者がそこから抜け出そうともがいたり、抜け出すことをあきらめたりするのは、
いつの時代も変わらないのだと思う。

原作と比べて違和感が感じられたのと、ラストの展開が個人的にあまり好きになれなかったのを除いては、
全体として観て、良い作品だったとは思う。
原作を読んだときの感動は超えられなかったけれど。
悪人とは誰か、というのはこの題名をつけた時点で逃れられないテーマなのだとは思うけれど、
そんなことを考えるのは単なる自己満足に過ぎないとも思う。
悪人とは、誰でもあり、誰でもないのだから。
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悪人(2010)
2010/JPN/139min

監督:李相日
原作:吉田修一
脚本:吉田修一/李相日
撮影:笠松則通
美術:杉本亮
美術監督:種田陽平
編集:今井剛
音楽:久石譲
出演:妻夫木聡/深津絵里/岡田将生/満島ひかり/塩見三省/光石研
余貴美子/井川比佐志/松尾スズキ/山田キヌヲ/韓英恵/中村絢香
宮崎美子/永山絢斗/樹木希林/柄本明

とりあえずご一読を。
悪人(上) (朝日文庫)

悪人(上) (朝日文庫)

  • 作者: 吉田 修一
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2009/11/06
  • メディア: 文庫


悪人(下) (朝日文庫)

悪人(下) (朝日文庫)

  • 作者: 吉田 修一
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2009/11/06
  • メディア: 文庫


こちらもおススメ。
惡人

惡人

  • 作者: 束芋
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2010/07/07
  • メディア: 単行本


長崎乱楽坂 (新潮文庫)

長崎乱楽坂 (新潮文庫)

  • 作者: 吉田 修一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 文庫



"アウトレイジ"(2010) [movie-あ行]

outrage 【アウトレイジ】

直訳すると、激怒{げきど}、激しい憤り、〔激しい〕暴力、暴動。
いわば最大級の怒りや暴力を表わす単語。
北野武の新作は、この単語そのままの作品に仕上がっている。

実を言うと北野武の暴力映画は凄いと思うけれど好きになれた試しがない。
この作品もそう。好きにはなれなかった。でもやっぱり凄かった。
何が凄いかを説明するのに、言葉を使うのはもどかしくて、
作品を観終わった後に、さて、どうレビューをしようか、と普段考えないようなことを考えたくらい。
だからこの映画"アウトレイジ"="outrage"と言うしかないような気がした。

オープニング。
ずらっと並んだ黒塗りの高級車と強面の男たち。
一見してヤクザ映画とわかるけれど、ただのヤクザ映画ではない、
北野武流のテンポ、色、仕掛け、が随所に感じられる。
ところどころ小ネタも挟まれ、私も含めた観客たちはその都度笑いを誘われ、
容赦ない暴力に目を反らしそうになり、
そして肝心なところで見せる美しさすら感じられる景色に心の襞をくすぐられる。
俯瞰やちょっとしたシーンの角度や間合いの取り方は本当に流石だと思った。
筋はシンプル、登場人物の役柄もありふれたステレオタイプのやくざが多く、
少し見ればやくざたちの上下関係、それぞれの組の立ち位置も把握ができ、
そしてそれぞれのキャラクターも容易につかみやすい。
山王会というゆるぎない強大な組織の末端の組を率いる北野武演じる大友組組長を中心に、暴力は展開されてゆく。
その大友組の若頭として先頭に立ち、映画の中でも目を引く存在なのは椎名桔平演じる水野。
すべてのお膳立てがきっちりしている中で際立つのは、やっぱり役者の良さ。
豪華というだけではない、きちんと仕事の出来る役者、これ以上ないキャスティング。
特に椎名桔平の徹底した筋の通った悪役ぶりと、男っぷりの良さには惚れさせられたし、
頭脳派ヤクザ役の加瀬亮もその線の細い見た目と裏腹の、打算的な強さ、狡さ、
すべて計算ずくの巧さにも魅了された。
珍しく英語も話せるヤクザという設定で、その英語の発音の滑らかさにも驚かされる。
杉本哲太の野心に燃える単純な若頭役もはまっていたし、
何より最後まで自分を見せない山王会本家若頭、加藤役の三浦友和の抑えた演技も本当に良かった。
周りを固めるベテラン勢も見逃せない。
豪華でありながらそれが重すぎない。北野武のなせる技だと思った。

個々のシーンに言及したらきりがなくなりそうなので、一言だけ付け加えると、
この映画で主役を張っているのは、いわば人というより人を介した暴力、それそのもの。
くだらない任侠の上下関係に振り回され、のっぴきならなくなる男たち、
そしてその状況を脇から冷静に見つめる男たち。暴力を介してつながり合う関係。
抗争の結末よりも、北野監督がいちばん描きたかったのはそこだったのではないだろうか。

心臓の悪い人と妊婦にはあんまり見せたくない、極上の暴力映画。

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アウトレイジ
2010/JPN/109min

監督:北野武
プロデューサー:森昌行/吉田多喜男
脚本:北野武
撮影:柳島克己
美術:磯田典宏
衣装:山本耀司(大友組組長衣装)
衣装デザイン:黒澤和子
編集:北野武/太田義則
キャスティング:吉川威史
音楽:鈴木慶一

出演:ビートたけし/椎名桔平/加瀬亮/三浦友和/國村隼/杉本哲太
塚本高史/中野英雄/石橋蓮司/小日向文世/北村総一朗

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個人的にはこの作品が好きです
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"イキガミ"(2008) [movie-あ行]

映画や小説では、時に人々の自由が極端な形で制限されたり、
何かを強要されることが当たり前のような世界が描かれることがある。
人々は許容しがたい法律や許容しがたい環境での思いもよらない生活を強いられ、
その環境の特異さや、設定の奇抜さ自体で物語が語られることも少なくはない。
こういった作品はその設定が作品のカラーや方向性をほぼ決めてしまっているといっても過言ではないだろう。

この"イキガミ"はコミックが原作で、政府により死を通達される3人の若者と、彼らの周囲の人々とのドラマ。
その架空の世界では、
全国民は子供の頃に体内に特殊なカプセルを埋め込まれ、
それによって1000人に1人の割合で18歳から24歳の若者があらかじめ設定された日時に
自動的に死を迎える仕組みになっていた。
“国家繁栄維持法”とは、
“死”の恐怖を実感した国民がより充実した“生”を全うすることで国家繁栄に繋げることを企図した法律。
政府発行の証明書は通称“逝紙(イキガミ)”と呼ばれ、そのまま題名にもなっているのだけれど、
松田翔太が演じるのは、藤本賢吾という政府発行の死亡予告証=イキガミをその本人に配達する厚生保健省の職員。
彼がイキガミを渡す相手に、
メジャーデビューを夢見るストリートミュージシャンの田辺翼(金井勇太)、
息子に届いたイキガミを選挙に利用しようとする保守系女性議員(風吹ジュン)を母に持つ滝沢直樹(佐野和真)、
そして事故で失明した最愛の妹(成海璃子)のために角膜移植を決断する青年、飯塚さとし(山田孝之)。
そんな彼らの最期の24時間を目の当たりにしたことで、
やがて藤本の心にも様々な迷いや葛藤が渦巻いていく…。
コミックが原作の作品では、その設定の奇抜さが競われ話題になることが多く、
ゆえにそこから話題作、ヒット作が生まれることも多いと思うのだけれど…
原作を読んでいないので何ともいえないのだけれど、
映画に関してはどことなく物足りない、という雰囲気が否めない。
どこかで見たような、どこかで聞いたような設定、キャラクター、そして三者三様の状況を描いているのだけれど、
悪くはないんだけれど、いまひとつ、のめりこむことも、感情移入もできなかった。
映画ではなく、ドラマの方が良かったのかな、という気がしてしまう。

いちばん印象に残ったのは、松田翔太が通勤に使っていた乗り物が、地元のモノレールだった、ってところ。
千葉都市モノレール、何となく非日常な感じのする乗り物なので、好きなんです。

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イキガミ
2008/JPN/133min

監督:瀧本智行
原作:間瀬元朗 『イキガミ』(小学館刊『週刊ヤングサンデー』連載)
撮影:柴主高秀
美術:矢内京子
編集:高橋信之
音楽:稲本響
VFXスーパーバイザー:進威志
出演:松田翔太/塚本高史/成海璃子/山田孝之/柄本明
劇団ひとり/金井勇太/佐野和真/井川遥/笹野高史/塩見三省/風吹ジュン

原作は面白いのかな…

イキガミ―魂揺さぶる究極極限ドラマ (1) (ヤングサンデーコミックス)

イキガミ―魂揺さぶる究極極限ドラマ (1) (ヤングサンデーコミックス)

  • 作者: 間瀬 元朗
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2005/08/05
  • メディア: コミック



松田翔太、山田孝之、塚本高史好きなら…

イキガミ [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 東宝
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