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"LILACS-ラフマニノフ ある愛の調べ"(2007) [movie-l]

ピアノはとても不思議な楽器だと思う。
バイオリンやギター、トランペットやフルート、そのほか旋律を奏でられる楽器の中で、
いちばんポピュラーで、鍵盤を叩けば簡単に音が出るのに、弾けば弾くほどまったく簡単ではなくなる。
テクニックだけでは、人を驚かすことはできても人を動かすことはできない。
この映画は人を動かす演奏ができた稀代のピアニスト、
そして作曲家であるセルゲイ・ラフマニノフの波乱の生涯を映画化した作品。
ただし、すべて史実に基づいているわけではなく、彼の作曲に対する葛藤、
そしてその彼を支える愛について焦点を絞った、史実に基づく部分もあるけれど、
それなりの部分で創作を加えた作品になっている。

はじめはラフマニノフの、アメリカでの長期にわたる公演生活が描かれる。
汽車でアメリカ全土を縦横に渡り歩き、行く先々で同じ曲を演奏し、そして移動するという繰り返しの生活。
彼は倦み、苦しみ、惑い、
妻ナターシャや盟友スタンウェイ(スタンウェイピアノの製作者)との関係も冷たいものになっている。
話が現在形で描かれるアメリカ時代と、過去形で描かれるロシア時代と前後して進んでいくので、
時にディテールの意味を取り違えて、後で「ああ、そういうことか」と納得するところも多かった。
師ズヴェーレフとの間の葛藤、そして交響曲、第1番初演失敗のエピソードや、ロシアからの亡命など、
創作部分に女性の影を絡め、どちらかというと彼の音楽家としての人生よりは、
彼の人生に影響を及ぼした3人の女性との関わりに焦点が置かれている。
ひとりは彼が若いころ曲を捧げるほど熱烈に愛したアンナ、
もうひとりは従妹で大人になったのち再会しのちには妻にもなるナターシャ、
そして教え子で彼にせまって関係を結び、のちには革命闘士となるマリアンナ。
女性のキャラクター設定がきれいに分かれているのも面白い。
アンナは妖艶な美しさを持ち、マリアンナは純粋で狂気的でエキゾチックな雰囲気を持っているが、
正直ナターシャには最後の最後までいまいち魅力を感じられなかった。
また、ある部分ではいかにも単純に物事が進んでいくので、強引過ぎる感は否めない。
それぞれの恋愛は少しく常軌を逸し、時に妻ナターシャを中心にした愛憎劇とも取れる展開もある。
特にマリアンナと対峙するシーンは、印象的。
そして、何といっても最後に彼が街をさまよい、ある事実と向き合うところで大きな転換を迎える。
以降のシーンはなんとなく清々しく感じられて、
それまで観ていて悶々としていた部分が洗い流されたような感じがした。
ライラック、という花もこの作品においてかなり重要なファクターなのだけれど、
終盤、そのライラックの鉢を抱えて歩いて行く彼を映した短いシーンがとても印象に残っている。

ラフマニノフの曲はいくつか耳にしたことがあった。
抒情的で繊細、センチメンタルな音楽という印象が強く、あまり好きではない。
けれど確かに愛、恋、というテーマにぴったりの音楽。
彼の人となり(生真面目で寡黙、芸術家肌で気難しい)も、その作品に影響しているだろう。
演奏はもちろん吹き替えだけれど、主演のエフゲニー・ツィガノフの容貌は若かりし頃のラフマニノフにそっくり。
そして全体的に重い感じがするのはロシア映画だからか。
(ロシア語の響きというのはどうも喧嘩腰に聞こえて好きになれない)
個人的にロシア映画で好きなのはタルコフスキーの「惑星ソラリス」
ニキータ・ミハルコフの「太陽に灼かれて」なのだけれど、
これらの作品を超える、もしくは近い感動を与えてくれる作品にはなかなか出会えない。
それはもちろん他の国の映画でも同じことだとは思うけれど。

ラフマニノフ、という名前を知っていて、音楽に興味のある人にはおススメ。

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LILACS
ラフマニノフ ある愛の調べ
2007/RUS/96min

監督:パーヴェル・ルンギン
撮影:アンドレイ・ジェガロフ
音楽:ダン・ジョーンズ
出演:エフゲニー・ツィガノフ/ヴィクトリア・トルストガノヴァ/ヴィクトリア・イサコヴァ
ミリアム・セホン/アレクセイ・ペトレンコ


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"THE LADYKILLERS-レディ・キラーズ"(2004) [movie-l]

それほど忙しくはなかったのですが、ちょっと書くのが面倒でblog放置してしまいました。
継続は力なり(笑)。

なんとなく、ときどき観たくなるコーエンブラザーズ作品。
コーエン兄弟×トム・ハンクスという組合せが気になっていたけれど、いまだ未見だった"レディ・キラーズ"
戦後英国で一斉を風靡した映画「マダムと泥棒」(55)のリメイクである本作は、
舞台をロンドンからミシシッピに、英国人の老婦人を敬虔なクリスチャンで頑固な黒人の老婦人に変更、
強盗団のリーダーである大学教授に扮する知能犯にトム・ハンクスを据え、
コーエン兄弟のブラックユーモアがどぎつく光るクライム・コメディだ。

率直に言うと、あくが強いわりに後半にかけて案外さらりとした展開なのが印象的。
強盗団と老婦人のやりとりは面白かったけれど、強盗団同士のやりとりがいまいち盛り上がりに欠ける。
トム・ハンクスの過剰な演技はさすがに巧者だと思わされるものだったけれど、
(しゃべり方や癇に障るような笑い方は絶妙)
彼が新聞で集めたといういかにもどじを踏みそうな、ちょっと足らない感じの強盗たちは、
正直、予定調和とも言いたくなるような雰囲気で、キャラクターに深みが感じられなかったような気がする。
個々に取り上げるのははばかられるけれど、とにかくブラックユーモアの多さと、
黒人マダムのキャラクターとテンポは悪くなかったと思う。
アメリカ映画のユーモアに関しては正直ところどころわからないところも多いけれど、そこはご愛嬌。
映画的な視点から言うと、カジノでの展開、橋の上のシークエンスは秀逸だった。
劇中でうまいこと使われているゴスペルと、
ラストのLouis Armstrong"What a Wonderful World(このすばらしき世界)"の、
BGMの持つ"味"は文句なく映画を引き立てている。

若干の下品さを厭わないのならば、コーエン兄弟の「陽」の部分を軽く楽しめる作品では。


THE LADYKILLERS
レディ・キラーズ(2004)
2004/USA/104min

監督:イーサン・コーエン/ジョエル・コーエン
脚本: イーサン・コーエン/ジョエル・コーエン
オリジナル脚本:ウィリアム・ローズ
撮影:ロジャー・ディーキンス
音楽:カーター・バーウェル
出演:トム・ハンクス/イルマ・P・ホール/ライアン・ハースト/J・K・シモンズ
ツィ・マー/マーロン・ウェイアンズ/ジョージ・ウォレス/ジェイソン・ウィーヴァー


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コーエン兄弟、個人的にはこちらが好み。
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"LUST, CAUTION"-ラスト、コーション(2007) [movie-l]

男同士の愛情を美しく綴った"ブロークバック・マウンテン"のアン・リー監督が描く、また違った愛の形。

二次世界大戦中、日本軍による事実上の占領下となっていた香港と上海を舞台に、
日本の傀儡政権である汪兆銘政権の下で、
抗日組織の弾圧を任務とする特務機関員の暗殺計画をめぐって、
暗殺の対象となった特務機関員と女スパイの間の愛情を描いた作品。
王佳芝(ワン・チアチー)は、抗日を掲げる学生劇団の仲間鄺祐民(クァン・ユイミン)に誘われ、
工作員として、架空の麦(マイ)夫人という人物を演じ、特務機関員易(イー)を誘惑し暗殺を目論むが、
はじめは子供のお遊びにも似た彼ら工作員の未熟さにより失敗、
三年後、再びクァンと巡り会ったワンは、新たに工作員として特訓を受け、再びイーの元へと現れる。

湯唯 (タン・ウェイ)演じるワンの変化が素晴らしい。
学生の課外活動の延長のような活動の時期と、
一変、三年後再びイーの前に現れたときの、女としてのすさまじいまでの変化。
それは単に色気という言葉だけでは言い足りない、生々しい何かがある。
はっきりと描かれてはいないが、王力宏 (ワン・リーホン)演じる仲間のクァンへの、
学生時代からのささやかな思慕は占領下の抑圧とない混じって満たされない思いとなり、
任務で接したはずの梁朝偉 (トニー・レオン)への複雑な愛情へと発展していく。
状況が許すことは決してない、決して甘くない愛。
トニー・レオンの抑えた演技は十二分に愛の深さと複雑さ、
彼が演じるキャラクターの救いがたいほどに深い孤独を物語る。
男と女との火花が散るような関係。
当時の雰囲気を存分に伝えてくれる美しい映像が、
言葉であからさまに描かれることない、ふたりの関係性を彩る。
当時の風俗(戦時下の香港の華やかな世界と占領下の中国人のひどい待遇のギャップや、
中国人ならではの麻雀を中心としたご婦人方の社交の在り方)も興味深い。
激しい性愛描写が話題となった作品だけれど、
それ以上に登場人物の心の機微や、時間の流れの使い方など、
台湾出身のアン・リー監督らしい、アジア人ならではの細やかな演出がみてとれた。
イーがワンへ贈る、指輪の使われ方も見もの。
アン・リーは複雑な愛情を描かせたら、当代一の監督ではないだろうか。
158分という長さと激しい内容で、観終わった後かなり疲れたけれど、
言い知れない余韻に満たされ、男と女の在り方を少し考えさせられてしまった。

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"LUST, CAUTION"(原題:色・戒)
ラスト、コーション
2007/USA/158min

監督: アン・リー
製作: ビル・コン/アン・リー/ジェームズ・シェイマス
原作: チャン・アイリン 『ラスト、コーション 色・戒』(『アイリーン・チャン短編集』所収)
脚本: ワン・フイリン/ジェームズ・シェイマス
撮影: ロドリゴ・プリエト
衣装デザイン: パン・ライ
編集: ティム・スクワイアズ
音楽: アレクサンドル・デスプラ
出演: トニー・レオン/タン・ウェイ/ワン・リーホン/ジョアン・チェン
トゥオ・ツォンホァ/チュウ・チーイン/チン・ガーロウ/クー・ユールン/ガオ・インシュアン


ラスト、コーション [DVD]

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  • 出版社/メーカー: Victor Entertainment,Inc.(V)(D)
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ラスト、コーション スペシャルコレクターズエディション [DVD]

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  • 出版社/メーカー: Victor Entertainment,Inc.(V)(D)
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ラスト、コーション 色・戒 (集英社文庫 チ 5-1)

ラスト、コーション 色・戒 (集英社文庫 チ 5-1)

  • 作者: アイリーン・チャン
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/12/14
  • メディア: 文庫


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"L'Année dernière à Marienbad"-去年マリエンバートで(1960) [movie-l]

「去年マリエンバートで」
邦題は直訳。
しごく印象的な題名で、この題名に作品の一部は集約されていると言っても過言ではない。
アラン・ロブ=グリエの脚本をアラン・レネが監督したモノクロ作品。
ロブ=グリエによれば黒沢明の「羅生門」=芥川龍之介の「藪の中」を下敷きにした作品。

学生時代に観そびれていたのを、シアターイメージフォーラムでやっているのを知って、
是非観に行かなければと思った作品。
冒頭ではしつこいくらいに同じフレーズが流れ、
豪奢なホテルの内装が映し出される。
計算しつくされた構図が素晴らしい。
ストーリーは複雑に見えるが、実はすごくシンプル。
男が二人に女が一人。
彼女を巡る時と場所を超越したストーリー。
細かく観れば衣装や場所などで、すべてつじつまが合うようになっているという。
様々なトリックは小難しいことが好きな方に任せておいて…
個人的な感想としては、本当に美しい映画だと思った。
なんだかまるで夢を観ているような映画。
そして本当に観ながら夢を観てしまうような(笑)、幻想的な作品だった。
ロケ地はフランスではなく、ミュンヘンだそう。
まだうまく消化しきれていないけれど、この作品はきっと何度か観て初めて合点が行く部分もあるんだろうな、と思う。
いつか、もう一度観てみたい。

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L' ANNEE DERNIERE A MARIENBAD
L' ANNO SCORSO A MARIENBAD[伊]
LAST YEAR AT MARIENBAD[米]
LAST YEAR IN MARIENBAD[英]
去年マリエンバートで(1960)
1960/FRA=ITA/94min

監督:アラン・レネ
製作:ピエール・クーロー/レイモン・フロマン
脚本:アラン・ロブ=グリエ
撮影:サッシャ・ヴィエルニ
音楽:フランシス・セイリグ
出演:デルフィーヌ・セイリグ/ジョルジョ・アルベルタッツィ/サッシャ・ピトエフ

去年マリエンバートで  HDニューマスター版 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • メディア: DVD



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"LARS AND THE REAL GIRL"-ラースと、その彼女(2007) [movie-l]

優しくて、でも人とどっぷり付き合うのを避けてきた不器用な青年ラース。

そんなラースが、リアルドールという人間そっくりの人形を自分の彼女と称して連れてくる。
周囲の人々の戸惑いは想像に難くない。
そういう人形にどっぷりはまる人々を、日本ならそれこそ「オタク」と呼んで敬遠したり、
オタクは彼ら独自のコミュニティの中で生きていくのだけれど…。

ラースは本当に純粋で、そんなラースの周りの人々は彼を理解しようと努力した。
義姉をはじめとして、彼のことを思い、優しく接する周囲の人々。
彼に対する自分の態度に責任を感じ、悩みながらも、義姉とともに彼を見守る兄。
彼らとともにラースの心の痛みに向き合う医師、
教会を中心としたコミュニティの存在が、この映画に安定感を与えている。
戸惑いながらもラースの嘘に歩調を合わせるおばさま方のおおらかな愛情。
本当に温かくて、深くて、そんな人々に囲まれて変ってゆくラースの姿がこの映画の核となっている。

人は、変わるときに多大なパワーを必要とする。
ラースはそんなパワーを温かい周囲の人々から得、きちんと昇華し、自分の糧にできた。
悩みや葛藤を通して、弱さは、いつか強さや優しさに変わる。

役者の雰囲気や温かさによって支えられた映画だと思う。
主演のライアン・ゴズリングは実際にドールと生活しながら役作りしたという。
音楽の温かさも良かった。
愛というものとその過程を大切にする人々の物語。

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"LARS AND THE REAL GIRL"
ラースと、その彼女
2007/USA/106min

監督:クレイグ・ギレスピー
製作:ジョン・キャメロン/サラ・オーブリー/シドニー・キンメル
脚本: ナンシー・オリヴァー
撮影:アダム・キンメル
衣装デザイン:キルストン・マン
編集:タティアナ・S・リーゲル
音楽:デヴィッド・トーン
音楽監修:スプリング・アスパーズ
出演:ライアン・ゴズリング/エミリー・モーティマー/ポール・シュナイダー
ケリ・ガーナー/パトリシア・クラークソン/R・D・レイド/ナンシー・ビーティ
ダグ・レノックス/ジョー・ボスティック/リズ・ゴードン/ニッキー・グァダーニ

ラースと、その彼女 (特別編) [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
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